ザリガニ日和



一緒に来てください!今度は 俺が本物のエビグラタンをご馳走します
「またかよー俺もひまじゃねーんだぞ?」


面倒だからやめろといってもザリガニは俺にレゴブロックを渡してねだってくる


何度言ってもコレなのだ


レゴブロックってやつは厄介で同じ形の細かなパーツを強く嵌めるとどうがんばっても外せない事がある


1×1の大きさの薄いパーツを事もあろうにこのザリガニは毎回ギュッと嵌めて外せなくしてるのだ


自分で外せるなら好きにすればいいけど どうもザリガニのハサミではうまく外す事ができなくて


そうして俺を頼ってやってくる訳だ それも何度も・・・


「いいかザリガニ このパーツは凄く外し辛いからギュッと嵌めるんじゃないぞ?」


ザリガニは大きく両手を上げ頭をウンウンと上下させている


「ホントにわかってんのかよ」そういいながら俺はパーツを外してザリガニに渡してやった


ザリガニは両手を上げて大喜びだ


だがしかし すぐにザリガニは同じパーツをくっつけてまた外そうともがいてる


「こいつ・・・バカだ・・・」


困り果てたザリガニがコチラをまたチラリと見たときにチャイムは鳴った「ピンポーン」


玄関を開けるとそこには田中さんがいた


「あぁ・・・あの・・・これ!これどうぞ!」


顔は地面を向いたまま両手でグラタンを持ち突き出してくる・・・まるでザリガニみたいじゃないか


「え?俺に?」


「あぁわわわ・・・その・・・作りすぎたんです!食べてください!」


なおも下を見つめたまま慌てたように返事をする


グラタンって作りすぎるものなのかな?とかなんとか思いながら


「ありがとう 嬉しいよ♪」


そう伝えると彼女の顔は真っ赤になり凄く照れているようだ


「以前食べたいって言ってたモノじゃないんですがエビグラタンなんです!お口に合えばいいけど・・・」


「え・・・エビグラタン?」


「えぇ!?お嫌いでしたたか!?」


「いやぁそういう訳じゃないけど・・・」


ザリガニの前で同属のエビを食べるのはどうだろうと考えをめぐらせた


アイツの事だから絶対に欲しがるだろうけど・・・コレをあげるのはチョット残酷かな・・・


「そうだ・・・」俺はひらめいた


「もし良かったら田中さん家で一緒に食べない?良かったらだけど」


「いいいいいぃぃぃぃっぃいいいいいぃぃいぃ」


「アレ?どうしたの田中さん?」


彼女は全身ガタガタと震えだした まるで噴火する前の山のようだ


「ぜひひひいいいいい・・・・是非お願いいいぃぃぃぃしますぅぅぅぅ><」


「お願いだなんてw突然へんな事言ってゴメンねw」


そう言うと俺はグラタンを持ったまま一緒に家を出て田中さん家に入っていった




「おじゃましまーす」


「いぃぃぃぃらっしゃしゃいませぇええ」


いかにも女の子らしい部屋に案内されたが返事をしたのは田中さんだけだった


「あれ?田中さんって1人暮らしなの?」


「はい・・・生まれはここら辺なんですが両親が出張で海外にいっちゃって・・・私は学校があるからって・・」


「へー1人で生活してるんだー偉いね♪」


「そ・・・そんな事無いです///」


そういいながらテーブルを見るといくつもグラタンが置いてあった


「本当に作りすぎたんだね」


他のグラタンは生焼けだったり焦げすぎていたりしていた 多分グラタンの練習でもしてたんだろう


俺が貰ったグラタンはバッチリの焼き加減だった


「そうなんです>< 作りすぎちゃって///」


なにやら声が上ずっていたが二人はテーブルに付くとグラタンを食べ始めた


「おいしー!」




「エビの程よい塩加減といい食感・・・何より身の繊細さ・・・これはただのエビじゃない」


「わあっはっはっはっ 気づいたか士郎」


「なんだと!?海原雄山どういう事だ!」


「これは京都は丹後の近海で取れた鬼エビ


胴体はトゲだらけで非常に剥き難いがソレを丁寧に時間をかけて綺麗に剥きあげる


生まれてくる身は実にハリがありプリっとした食感であることは当然として


味はエビでありながら非常にカニに近い味わいを楽しむ事ができるのだ


市場に出回る事は殆ど無い・・・そう奇跡のエビといえよう!


それを贅沢にも一つのグラタンに5匹も使ってあるのだ!まずいはずが無かろう!」


「く・・・・俺のまけだ・・・・」


とか頭の中で想像しながら味わって俺は食べた


彼女は食べ始めると下を向いたままモクモクと凄い速さでグラタンを平らげていった


まるで早食い競争でもしているかのようなスピードだった


「田中さんよく食べるね♪」


「は・・・その・・・・これは・・・・///」


恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた田中さんだったが急に表情が青ざめた


「どうしたの・・・田中さん・・・?」


「なんか・・・・います・・・・ヒ・・・ヒィィィィィィ」


慌てふためく田中さんの視線の先を見るとそこにヤツはいた


両手を天高く振りかざし真っ赤になって・・・てか最初から真っ赤だけど ザリガニは怒っているようだった


「オマエなんでココにいるんだよ!」


どうやって入ってきたんだと俺は思ったが 見ると壁に大きな穴が空いていた


その奥でバッタがコソコソ何かやってやがる


「おいバッタ!オマエ何やってんだよ!そんなとこに穴なんて開けやがって!」


バッタはコチラを見るとニヤニヤ笑った


「ゴメン田中さん!びっくりするよね!」


「はわわわわわーーーー」


混乱している田中さんをよそにザリガニは目的のグラタン目掛けて一直線に走ってきた


どうやらザリガニは美味しいものを独り占めにされていたのが気に入らなかったらしい


顔をグラタンに突っ込むと凄い勢いで食べ始めた


「てめ!何してやがる!コラ!やめろって!」


俺はザリガニの後ろから羽交い絞めにしようとしたが想像以上にザリガニの力は強く


全力でグラタンを貪っていた


「コイツ・・・本気(マジ)だ・・・負けてられっか!」


ようやく引き離したときにはグラタンは殆ど食べつくされた後だった


「このバカザリガニなんて事しやがる」


そういわれてもザリガニは上機嫌で両手を振るばかりで反省の色が無い


「ゴメン田中さん俺の食料がグラタン食べちゃって・・・」


「いえ・・・いいんです・・・それはいいんです・・・ちょっとビックリしちゃって・・・お兄さんのペットだったんですね」


「ペットじゃないんだけど・・・その・・・公園でみつけたんだよ」


「名前とかなんていうんですか?」


田中さんはどうやらザリガニを完全にペットだと誤解しているようだ


「食料に名前なんてないよw」


「そんな~名前が無いなんてかわいそうですよーそうだ!ザリガニだからザリちゃんとかどうですか?」


「うーん・・・食べ物に名前をつけるのはちょっと・・・そんな事より壁の穴どうしようか・・・ホントゴメンね」


二人の会話を聞いていたザリガニはザリちゃんがいいと主張していたが わき腹にグーパンチをお見舞いした


っていうか反省しろこの食料め


「私はこのままでも・・・」


「え?なんて?」


ザリガニにかまっていて良く聞き取れなかったが


またも田中さんは顔を真っ赤にして首をブンブンと振っていた 振りすぎて頭が取れるんじゃないかと


心配するほどだった


「うーん・・・困ったな・・・・あっ・・・そうだ!」


俺は出来た穴を潜り抜け自分の部屋に戻った


そして物陰からニヤニヤ覗いているバッタを捕まえて手で握り締めた


「いいかバッタ・・死にたく無かったら壁を元にもどせ」


バッタはあせったように俺の目をじっと見る


俺は血走った目で睨み返した グググと手に力が入る


暫らくの沈黙の後バッタは小さく頷いた


バッタは俺の手から逃れるとクリスマスに上げたラジオを持ち出してスイッチを入れた


すると見る見る壁の穴が小さくなり しまいには穴は無くなった


やれば出来るんじゃないか


玄関から田中さん家にもう一度お邪魔をしてグラタンのお礼とお詫びをした


「全然気にする事無いですよ~壁も元通りだし また今度何か作りすぎたときはザリちゃんの分も用意しますね♪」


「ホントゴメンネそう言ってくれて助かるよ♪そうだ!」


俺は喜んでいるザリガニの頭を小突きながらココ最近のお礼とお詫びをかねて田中さんを食事に誘ってみた


真っ赤になってガタガタと震える田中さんはバネ仕掛けの人形のように首を上下にずーっと振っていた


「じゃーご馳走様♪おじゃましました~」


そう俺が告げて玄関を出るときもまだ首を振っているままだった








アレから俺はだいぶ夜も更けているが仁王立ちになり二人を見下ろしていた


家についてからザリガニとバッタを呼びつけてずっと説教をしていた


ザリガニとバッタは正座をしてうつむいている


たまにザリガニが両手を上げて反論するがピシャリと黙らせた


バッタは足が痺れて浮遊しようとするが 俺がニラミを利かせるとシブシブ正座に戻った


説教の時間はまだまだ続くのだった